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Vol.8 ~喫茶チルーへようこそ~ [犬ばか歳時記]

 ~喫茶チルーへようこそ~

 皆様こんにちは。犬ばかです。
京都と大阪のちょうど中間地点に住んでいる私は、自営業ということもあり、普段はあまり繁華街に出ません。

       
東京から引っ越してきたので、碁盤の目のような京都はなんとか地図を見ながら歩けますが、ごちゃごちゃした大阪となると、いったいどこを歩いているのか分からなくなってしまうのです。

そんな私が、あえて喜び勇んで出かけるエリア、それが大阪の「えびすばし」。そこには電気街と道具屋筋があるのです。
東京でいうと、秋葉原と合羽橋がくっついたような地帯。そして雰囲気は神保町。
マッキントッシュユーザーである私は、ここまで来ないとマック用品が手に入らないという事情もありますが、ここらあたりをブラブラして、いろんな部品をチェックしたり、カラフルな電球を見たり、オタクやおじさんが熱心に話しているのを立ち聞きしたりします。
それから近くの「なんばCITY」に寄り、ソニープラザでこのフリーペーパーを5冊ほどお持ち帰りします(かなり挙動不審な感じで)。
 

 さて。道具屋筋には業務用の厨房用品を商う店がズラリと並んでいます。
大阪ゆえ、店頭のいちばん目立つところには、たこやき、お好み焼き、イカ焼きの機械。
お店の奥へ入れば、あらゆるサイズのお鍋、せいろなどの器具類。そして、キャベツのみじん切り機、大根おろし機、パンこね機など、お店仕様のマシーンの数々! そんな中でシロウトの私がなにかおみやげにするなら、クッキー型や喫茶店のメニュー立てなんかでしょうか……ややっ、見つけましたよ、鉄でできた「焼き印」です。
おまんじゅうや、卵焼きに押すと良さそうです。柄は、「寿」などの字や、干支の絵柄。ということは、犬もあるはず! と、探してみたらありました、犬の絵柄、しかも、巻尾で立ち耳のやつが。
「ひとつひとつ職人が手で彫ってるから、ちょっとずつ違うんですわ」と、お店のご主人。
私は、ふとももの肉付きがよい一匹をお買いあげ。さっそく家に帰って卵焼きに焼き印を押してみたら、あらステキ!
あっという間に「犬印卵焼き」のできあがりです。
喫茶店用コーナーで無地のコースター100枚350円も買ってきたので、プリントゴッコで自分の絵を印刷して「オリジナル犬ばかコースター」も作ってみました。
なんてオシャレなのでしょう! これでかねてからの夢だった、犬のいる喫茶店の開店へと一歩近づいた気がします。

                                                        
店の名は、「喫茶チルー」。椅子の脚をがりがり噛んで、歯と歯ぐきを鍛えている凶暴な犬がいる喫茶店。
お客様のドリンクや食べ物を犬が横取りする喫茶店。お手紙机があって、犬の郵便配達が手紙を運んでくれる喫茶店……(夢想はつづく)。

チルーのあらたな趣味は「溝」。
そこには犬なりの哲学が!?

 と、ここまで書いたところで実家の父(生粋の江戸ッコ)がうちに遊びにきて言いました。
「オイ、そろそろネタがないだろ、犬のやつ」。
父の言わんとするところは分かりますけれど、犬を飼っている人なら、犬にまつわるネタが無尽蔵なのはお分かりいただけるでしょう。
犬だって、毎日おなじことの繰り返しのようでいて、実はちょっとずつ変化しているのですから。

 今月のチルーさん(紀州犬雑種・2歳)はと申しますと、いま「溝」にハマっています。
溝というのは、道路の端に、雨水を逃がすためにつくられた側溝のこと。その中に入るのがいいらしく、散歩中も、溝を見つけては中に入り、溝がとぎれると仕方なしに道路を歩くといったあんばいです。
とくに深い溝と細い溝がお気に入りのようで、溝を走り抜けるときのチルーは、やけにイキイキと輝いて見えます。


人間にとっては取るに足らない溝も、犬にとっては切り立った崖、とも言えるわけで……今までとは視界が違って見えるのが魅力なのでしょう。
 
 この連載の第6回にて、じゅうたんのふちに沿って走る犬「やもやもちん」をご紹介しましたが、ひょっとしたら犬というのは、決められたレールを走るのが案外好きなのかもしれませんネ。
普段は飼い主の言うことをまったく聞かないチルーが、頼んでもいないのに溝の中を律儀にまっすぐに歩く姿は、なにか中国の故事のようでもあり、非常に示唆に富んだ景色なのです。
(2004年『S.P.Splendid!』2月号掲載)


 


2006-03-22 19:39  nice!(0)  トラックバック(1) 

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