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Vol.6 ~犬はみんな変わり者の巻~ [犬ばか歳時記]

 犬にとって、食欲と睡魔、どちらが勝つのか。
チルー(紀州犬雑種・2歳)だけでなく、ほとんどの犬が「断然、食欲である」と答えるでしょう。
どんなに熟睡しているように見えても、おやつの袋をパリッと開ける音がすればたちまち覚醒。
すわ急げ、と食べ物めがけて猪突猛進。とぐろを巻いて寝ていても、遠くのほうで鳴いている犬の声には、いちいち起きてリアクション。
ものの本によれば、犬は睡眠中、嗅覚はお休みしていても、聴覚は働いているままらしい。
その証拠に、眠っているとき、犬の鼻は乾いているが、耳はぴくぴく動いている。
外敵やエサの情報を仕入れるため聴覚はONにしておくのですね。
忍者は風呂で湯船につかっている時でも中腰で、何かあればすぐに出られるようにしているそうですが、犬にとっても眠りとはつかの間の休息に過ぎず、真のリラックスは、死ぬまであり得ないのかもしれません。

 しかし、チルーにも食欲より睡魔が勝った時が一度だけありました。
それは、私たち人間どもが、家族でカニを食べていた時。
チルーはおこぼれに預かろうと、玄関でずっとおすわりをしていましたが、カニに夢中の私たちはチルーのことなど忘れ、おおいに食事を楽しんでいました。
酒も入り、宴もたけなわ。完全に無視していたチルーの存在をふと思い出し、玄関に見に行ってみると、そこには、おすわりをしたまま目をつぶって、ゆらゆら、舟をこいでいる犬の姿が……。
ときどきガクっとなっては、またおすわりし直し、ユラユラ、ゆらゆら。
まるで電車の中で立ったまま眠っているおじさんのごとく、ゆらいでいた。
その様子が愉快であったので、褒美としてカニの殻をあげたところ、一気に目覚めたチルーは、殻をばりばり囓って全部飲み込んでしまった。
父は「わはは、カルシウムやから大丈夫」と笑っていましたが……。

チルーに負けず、おもしろい犬たち

 チルーも変わり者だけど、正味な話、犬は一匹一匹が変わり者。それぞれに、ポリシー、習慣、悪趣味をお持ちです。
今回は、全国にいるチルーの仲間から、精鋭5匹をご紹介します。


1<京都の荒くれ者>ジャック


2<国分寺の野武士>ムー


3<滋賀の大きいチワワ>ドゥー


4<世田谷の姫>フジコ


5<群馬の律儀者>やもやもちん


6<枚方の無軌道>チルー

※ 写真はそれぞれの犬の飼い主が撮ったものです。

 京都府のジャックは、淀川をはさんだ向こうの山に住んでいる黒いレトリーバー。
一度、川を越えて遊びに来てくれました。
大型西洋犬特有の無邪気さでチルーのなわばりに堂々と侵入したジャックは、チルーが「オレっちの城」と死守していた小屋にもずんずん入って「ええ小屋やんか」といちべつしたあと、チルーの庭でほがらかに放尿。
大きな石をガリガリとチューインガムみたいに噛むくせをチルーが真似したときには、私の脳裏に「NOと言える日本」というフレーズが浮かんだものです。
そんなジャックは、NHKの『生活笑百科』のオープニングが流れると、どこにいてもTVの方に近づいて「アウー」と一緒に歌うそうです。きっと、笑福亭仁鶴のファンなのですネ。いろんな味がしみこんだ台拭きを噛むのも大好きだそうです。
 
東京都国分寺市在住のムー(雑種)は、散歩中つねに道の端から端へとジグザグ歩行するため、飼い主を悩ませています。
また、体を洗ってあげた直後に砂あびをするという、人にとってはある意味「いやがらせ」的な行為も、ムーにとっては野性の呼び声がそうさせるのだから、仕方ありません。

 滋賀県彦根市のドゥー(ロングコートチワワ)は、そのキュートな容姿からは想像できませんが、お父さんの水虫の足を舐めるのが大好き、という悪趣味をお持ちです。
お父さんがまんざらでもなさそうにしているというのが、ほほえましい家族のひとコマ。

 東京都世田谷区のフジコは、コッペパンのようにおいしそうな小麦色の毛と、つぶらな瞳が可愛らしい柴犬。
「耳の中がかゆいと、足を耳に突っ込んでグリグリ掻いています。その後でグリグリした足の匂いをクンクン嗅いだり、ぺろっとなめたりするので、見ているこっちがちょっと恥ずかしいです」とは飼い主の弁。名前も可愛いけど、癖も可愛らしい!

 そして私の友人である袖山さん宅で飼われていた「やもやもちん」。部屋犬ゆえ、「じゅうたんのふちどおりに歩く」という変わった習性を持っていました。
やもやもちんにとって、それは単なる癖というよりも生きザマであったようで、どんなに急いでいるときでも、このポリシーは曲げなかった。全速力で走りつつ、じゅうたんの端を直角に曲がったといいます。
「なんて礼儀正しい犬なんだ」と、人間たちは感心しましたが、実は仏壇のおはぎをコッソリ食べている犯人でもありました。
やもやもちんは昨年老衰で他界され、近々ご家族の方々によって法要も行われるそうです。
極楽浄土のじゅうたんのふちを、せっせと歩くやもやもちんの姿が目に浮かびます。合掌。
(2003年『S.P.Splendid!』12月号掲載)


2006-02-23 16:44  nice!(0)  トラックバック(1) 

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