書きおろし・第7回 ちゃっかりどうぶつの巻 [犬ばか歳時記]
チルーの住む大阪府枚方市は、夏には38.5度を記録し、
時にはニューデリーやバンコクより暑くなってしまう地方都市であります。
熱せられたアスファルトで肉球がやけどするため、
散歩は日が落ちてからでないと無理。
昼間は、木陰に避難してセミ取りに興じるか、
よしずをたてかけた犬小屋で寝ています。
小屋の中には、魚を運搬したときに使用した保冷剤を置いておきます。
ほんのり海産物の匂いがする保冷剤にあごをのせて、昼寝をするのが
チルーの夏の日課であります。
あまりに暑い……。
さて、こんなときは南の島の話でもしましょうか。
沖縄の由布島という小さな島に行ったときのことです。
由布島は、西表島から水牛車に乗って、遠浅の海を渡って行きます。
水牛が、荷車を引いて海を渡り、私たちは、荷車に乗ります。
手綱を握るおじさんは、サンシンを弾いて、琉球民謡を歌います。
由布島は、全体がなつかしムードの植物園になっていて、
しばらくいると、ここがどこで、いま何時代なのか、わからなくなってしまいます。
あっという間に時間が過ぎ、最後の牛車がでる時間になりました。
夕方になれば、植物園の職員も皆、西表島に帰ります。
なので、牛車の最終便は、職員の人も乗ります。
おじさんが、もう出発するよ~というと、どこからか、
すたすたすたー、と雑種犬が走ってきて、ひょい、と荷台に飛び乗り
おじさんに「早く出してよ」という顔をしました。
牛はゆっくり歩きはじめ、わしわし、海に入っていきます。
牛車が海を渡るあいだ、その犬はずっと、海のほうを見て、
気持ちよさそうに風にふかれていました。
いい風景すぎて、写真を撮るのがもったいなくて、カメラにおさめるのはやめました。
とにかくその場の空気を動かしたくなかったのです。
そして、牛が対岸につき、西表島の砂浜に登りだすと、犬はまたひょい、と
降りて、すたすたすたー、と走っていきました。
牛も、毎日のことなのか、ノーリアクションでした。
今回の写真は、そのときの連れが、がんばって撮ったものですが、犬は写っていません。
動物が動物にちゃっかりお世話になっている図を見るのは、いいものですね。それも、「共生」といった、生きるためのギブ・アンド・テイクではなくて、「たまたまそこにいるから、つい、お世話になっちゃった」という感じが、いいです。
たとえば、海鳥が、くじらの上でひと休みするとか、そういうのが、ね。