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Vol.3 ~犬小屋とお風呂~ [犬ばか歳時記]

 犬を飼うにあたっては、まず犬の住環境を整える必要があります。チルーの場合は、野趣あふれる紀州犬(たぶん)の雑種なので、庭で放し飼いにすることに決め、大きめの小屋をつくってやることにしました。

さっそくホームセンターで材料を買ってきて組立て、ペンキで青と白に塗り、恐がりのチルーのために、屋根のてっぺんには魔除けのシーサー(沖縄の狛犬)を設置。さらに、飛騨高山の定番おみやげ「魔除けのサルボボ」をぶらさげて、二重に魔除け。これで真っ暗な夜もあんしんです。

                                          
 なにせ、うちへ来てから1週間は、ひとりぼっちで眠ることができずに、夜中に「きゅー きゅー」と声を出して人を呼び、膝の上で寝かしつけてもらっていたチルーですから、小屋もさびしくないようにしなくてはいけません。小屋の前面には、雷除けのお札、グレイトフルデッドのステッカー、炎のシール、そして夫が描いたチルーの似顔絵を貼って、楽しい感じを出しました。

                                                  

また、夏場の暑さを少しでも和らげるため、小屋を地面から10センチほど上げて高床式にして、そのぶん、入り口には階段を。この階段はブロックに白い粘土を貼りつけ、そこにビー玉をしきつめたお手製です。ビー玉が、犬の足の裏にある肉球をほどよく刺激して、健康効果も期待できるスグレモノ! これらの作業はすべて、器用な夫がやったのですけどね……。


 チルー自身は、犬小屋の入り口をガシガシ噛んでガタガタにし、アンティークな感じを演出。靴下やぞうきんを自分でまるめて枕にし、心地よい空間をつくりました。私はといえば、犬小屋に直射日光が当たらないように「よしず」を立てかけてやったり、朝、打ち水をして涼しくしてやったり、和の知恵でチルーを助けてあげています。
 
 不思議なのは、小屋をつくってやると、犬はすぐに、何の疑いもなく、そこに入って寝ることです。どうしてこれが「自分の家だ」とわかるのでしょう? 大きさとか、雰囲気とかかな? それはいいけど、我々がつくってやったことは、わかっているのでしょうか。それとも、「あ、なんだかちょうどいい大きさの穴蔵が、ちょうどいいところに現れた」なんて、漠然と感じているのでしょうか。そのへんは、犬に聞いてみなくてはわかりません。


~無類の風呂嫌い~

 さて、外で飼っていると、犬はだんだんと薄汚れてきます。季節の変わり目には毛が生え替わるので、その過程では、落ち武者のようにモッサリしてきます。

困ったことにチルーの場合、夏前にふさふさの冬毛が生え、冬前にさっぱりした夏毛が生えてきてしまうという間違ったサイクルになっているので、夏まっさかりになってから、「あ、冬毛じゃ暑い」と体が感じてもう一度抜け替わります。というわけで、しょっちゅう毛が抜けたり生えたりしているチルーは、年中無休のボサボサ感。そのうえ京都の「菊一文字」という刃物屋で買った硬派な黒い首輪をしているため、男と間違えられることも、日常茶飯事です。

                     

そういうとき、風呂に入れてきれいにしてあげたい、と飼い主の私は思うのですが、チルーは女子のくせに無類の風呂嫌い。風呂に入れようかなーと心の中で思いながら「おいで」と呼んでも絶対にやってきません。さすが。犬は空気を読む動物です。


 ようやくつかまえて、チルーをかかえたまま風呂場に連れていくと、手足を踏ん張って、拒否の姿勢。 それでも風呂場に放り込み、シャワーで水をかけると、ぶるぶると身震いして何度も水をきり、風呂場の中を走り回って逃げます。犬用シャンプーをつけて無理矢理ゴシゴシ洗うと、観念したようにおとなしくなるけれど、胸のあたりをさわってみたら、心臓の鼓動がトルルルルとドラムロールなみに速くなっています。どんな動物も一生のあいだに打つ鼓動の数は決まっているというから、風呂は確実にチルーの寿命をちぢめている……。

こりゃいかん、とすぐに水をかけてあげても、これもまたチルーにとっては拷問で、ついには目がうつろになり、魂が飛んだ状態になってしまいます。どこをさわっても体がカチコチで、名前を呼んでも聞こえていない。焦点の合わぬ瞳で風呂の天井を見上げているだけです。まるで、古くなって固くなった、ぬいぐるみのように。
 
 風呂から上がると、チルーは一目散に庭へ飛び出し、土に体をこすりつけて毛をどろんこにしてしまいます。風呂に入った日は、匂いの強い植物に体をこすりつけることも多く、散歩のとき、道端にくさい魚の干物なんかが落ちているときには、そういうのにも体をこすりつけます。なにせ、オヤジ臭とイカの薫製の匂いが大好きなチルーのことですから、早く、もとの「犬くさい」自分に戻りたいのでしょう。飼い主としては「あーあ」と言いたいところですが、こういう犬の習性を知るのもまた、犬を飼う醍醐味で、けっこう楽しいものです。

(2003年『S.P.Splendid!』9月号掲載)


 


2006-01-11 16:18  nice!(0)  トラックバック(2) 

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